抄録
冠動脈病変がどのように進行するかは,虚血性心疾患の治療方針を決定したり患者の予後を考える上で重要な問題である.昭和49年7月から昭和62年6月までに当院において2回以上冠動脈造影を受け,その間PTCAやバイパス手術を施行されていない380症例を対象に検討した.これらのうち60例に心筋梗塞の発症が認められ(以下A群),155例に梗塞発症を伴わない冠動脈病変の進行が認められた(以下B群).165例は冠動脈病変の進行は認められなかった(以下C群).糖尿病,高血圧,喫煙,高βリポ蛋白血症はB群においてC群に比し有意に高く認められた.高コレステロール血症,高中性脂肪血症,低HDL血症,高尿酸愈症はいずれもB群において高い傾向にあったが有意差は認められなかった.エルゴノビン負荷試験陽性率(完全または亜完全閉塞)はB群においてC群に比し有意に高く認められた.観察期間3年未満と3年以上では前者に比し後者においてB群の比率が有意に高くなっていた.一方A群は今回検討したどの因子においてもC群と有意な差は認められなかった.梗塞非発症の冠動脈病変進行には糖尿病,高慮圧,高βリポ蛋白血症,冠動脈スパスム,時間が有意に関与していたが心筋梗塞発症にはどの因子も有意に関与していなかった.梗塞非発症の冠動脈病変進行と心筋梗塞発症には異なった機序が関与している可能性が示唆された.