抄録
肺塞栓症による急性肺高血圧症の予後は,適切な治療により急性期を乗り切れ再発防止が有効に行われた場合は通例良好で,慢性肺高血圧症に至る予後不良例はまれとされている.このたび,我々は卵円孔開存による奇異牲塞栓症と思われる症状を伴い,反復性肺塞栓症から肺高血圧症が不可逆的となった症例を約4年間観察しえたので報告する.症例は現在72歳,女性.軽労働中に急に呼吸困難を生じたが,数日後意識レベルの低下と右片麻痺の出現のため入院となった.入院時,神経学的異常所見に加えて頻呼吸を認め,検査所見ではLDH,FDPの高値,著明な低酸素血症が持続した.診断確定後,線溶療法と抗凝固療法によく反応し全く神経学的異常を残さず退院した.6カ月後にワーファリンを中止したが,その後数カ月して広範囲肺塞栓が再発した.この際,初回と同様の治療に加えGreenfield pulmonar yembolectomy catheterを試用したが,慢性期のためか不成功で肺高血圧症は増悪傾向を見せた.初回発作から約3年8カ月後にも諸検査を施行したが肺高血圧症の改善なく,肺性心の病態を呈し予後不良と考えられた.肺塞栓症について抗凝固療法の打ち切り時期決定には慎重を要すること,原因としての静脈血栓症から奇異性塞栓を生じうること,反復性の場合は通常の治療が不十分なことがある,と考えられた.