抄録
心原発腫瘍はまれであるが,近年診断技術の進歩に伴って臨床的に経験する機会が多くなってきた.今回我々は左心室原発の膳肪腫の術前診断にて手術を施行しえたmassive lipornatous infiltrationの1例を経験したので,本疾患の病理学的特徴と手術方針について検討を加え報告する.
症例は,42歳の女性で,家族歴,既往歴に特記すべき事項はない.27歳で第一子を出産し,その後月に1回程労作に関係なく前胸部絞拒感をきたすようになったが放置していた.しかし41歳頃より,易疲労感も出現したため精査,治療を目的に入院した.心超音波検査,胸部CT検査,左室造影にて左室心尖部を中心に内腔へ突出する腫瘤像が認められ,CT値が-16であったため,左心室原発の脂肪腫を疑い摘出術を施行した.完全体外循環下に左室切開を加えると,腫瘍は前壁~側壁にかけて連続した広基性で,心筋との境界が不明であったため,内腔に突出している部分のみ切除した.組織学的に腫瘤は,出血,壊死を伴わない成熟脂肪織からなり,腫瘤内には脂肪織を分割するような結合織性隔壁はなく,また新生腫瘍血管を思わせる所見もなく,脂肪腫様に増生した脂肪織浸潤と診断された.術後1年たって,易疲労性などの症状もなく,また諸検査でも遺残病変の増大を見ていない.