1990 年 22 巻 5 号 p. 533-538
症例は39歳男性で,昭和62年6月末に足指の切創の後,腰痛と熱が出現したため入院した.入院時より高度の炎症反応異常を認め,各種検査を施行するも確定診断がつかなかった.8月24日突然胸痛発作を起こし,心電図所見,酸素の上昇より急性前壁心筋梗塞と診断し治療を開始した.心エコーにて僧帽弁に疵贅を思わせる像と僧帽弁逸脱を認めたため,血液培養検査は陰性であったが感染性心内膜炎と診断し,各種抗生物質の投与により発熱は軽快した.慢性期冠動脈造影にて,左冠動脈前下行枝,AHA分類の#8に動脈瘤状の内腔拡大を伴う閉塞を認め,左室造影にて僧帽弁閉鎖不全Sellers3度を認めた.12月3日僧帽弁置換術を施行,僧帽弁には腱索の断裂が認められ,病理学的には肉芽腫様の病変が弁論,腱索に広く認められた.感染性心内膜炎の重要な合併症に全身の血管塞栓ならびにmycotic aneurysmの形成があげられ,脳や腹部の動脈に多いとされている.冠動脈に塞栓が起こる事は剖検例の調査ではまれでないとされるが,生存中に臨床的に診断され,またmycotic aneurysmを認めたという報告は少ない.本症例は感染性心内膜炎の経過中に疵贅による冠動脈塞栓を起こし,これにより急性心筋梗塞の発症ならびに動脈瘤状の変化をきたしたものと思われた.