1990 年 22 巻 5 号 p. 597-601
心筋細胞の生理的収縮は,活動電位発生の結果細胞質中にカルシウムイオン(Ca2+)が動員され,そのCa2+が収縮蛋白系を活性化することにより生ずる.動員されるCa2+は,少なくとも哺乳動物の心筋においては,主として小胞体に由来することが,リアノジンにより小胞体機能を特異的に抑制したMitchelIらの実験から明らかである.小胞体からのCa2+放出には細胞外からのCa2+流入が必要である.Ca2+流入の経路には(1)膜電位依存性Ca2+チャンネルと(2)Na+-Ca2+交換機構の2つがあるが,L型の膜電位依存性Ca2+チャンネルを通じる経路が最も主要なものである.心筋小胞体にはCa2+自身がCa2+放出を惹き起こすCa-induced Ca release(CICR)機構が存在する.しかし,(A)生理的条件下でCICR機構の活性は弱いこと,(B)CICR機構をプロカインやアデニンで抑制しても生理的なCa2+放出は通常抑制されないこと,(C)脱分極はCa2+流入とは別の影響をCa2+放出機構に及ぼす可能性がCannelらにより示唆されていること,などの事実があるので,流入Ca2+は狭義のCICR機構を活性化してCa2+放出を起こすのではなく,Ca2+感受性を持ってはいるがCICRとは全く異なる骨格筋類似の機構(おそらく,細胞膜またはT管膜の膜電位センサーと小胞体Ca2+放出チャンネルとの直接または間接の蛋白問相互作用)を促進して,Ca2+放出を惹き起こしているのではないかと考えられる.