1990 年 22 巻 9 号 p. 1061-1066
急性心筋梗塞の経過中,まず三尖弁乳頭筋断裂,ついで心室中隔穿孔を合併した1例を経験した.症例は73歳男性の急性下壁梗塞例で,第3病日に三尖弁の右房への逸脱による重症三尖弁逆流をきたし,ついで第6病日心室中隔穿孔を合併した.明らかな心不全徴候を欠いたが,.血圧および心係数が低値で経過し,心胸比の増加を認めたため,第21病日心臓カテーテル検査を施行したところ,右冠動脈近位部の完全閉塞,右室における血液酸素濃度の有意な増加を認め,右房圧は平均16mmHgで右室類似波形を呈していたが,肺動脈圧および肺動脈懊入圧は正常であった.第25病日の術中所見では三尖弁前尖および後尖に付着する乳頭筋の断裂による両尖の右房への逸脱と心室中隔基部後壁側の穿孔を認めたため,入口弁置換と梗塞部切除および穿孔部直接縫合術を施行し,現在心症状なく社会復帰している.
急性心筋梗塞の合併症としての三尖弁乳頭筋断裂の報告は1例のみとまれであるが,本例のようにさらに心室中隔穿孔をも合併した例の報告はなく,極めてまれと考えられたのでその血行動態の特徴にも若干の検討を加えて報告した.