心臓
Online ISSN : 2186-3016
Print ISSN : 0586-4488
ISSN-L : 0586-4488
症例 カテコールアミンの急激な上昇を伴い急性心臓死を呈した褐色細胞腫の1例
山中 達彦橋本 正樹児玉 和紀岡林 清司田口 治義大谷 美奈子米原 修治西山 正彦新本 稔
著者情報
ジャーナル フリー

1990 年 22 巻 9 号 p. 1086-1092

詳細
抄録

副腎動脈塞栓術中に急激にカテコールアミン上昇を伴う心筋傷害を呈し,15時間という短い経過で死に至った,47歳女性の巨大褐色細胞腫例を経験したので報告する.ICU入室時の血中ノルアドレナリンは1,700ng/ml(正常値;0.10~0.41ng/ml)と顕著な上昇を認め,その後も漸増し6,300ng/mlに達した.同時に,心電図におけるST,Tの変化,多彩な不整脈等より臨床的にカテコールアミンによる心筋傷害を疑った.しかし,経過中,心エコー図で心室中隔の壁運動の低下を認め,心電図変化としては一過性のST上昇を頻回に繰り返し,さらにニトログリセリンの投与によりST上昇の改善を認めたことより,冠動脈スパズム後の急性心筋梗塞の合併も考えられた.病理解剖では冠状動脈に血栓,塞栓による閉塞所見はなく,心筋,心内膜にも梗塞を示唆する所見を認めなかった.左室心筋のPTAH染色像では中央に横紋が不規則に凝集した心筋細胞を認め,contraction band necrosisの像を呈したが,炎症細胞の浸潤はなかった.
本症例のごとく巨大褐色細胞腫症例で,カテコールアミンの急激かつ顕著な上昇を伴う急性心筋病変を病理学的に認めた症例は文献的にも珍しく報告した.本症例はノルアドレナリンの顕著な上昇を確認しており,かつ心電図にて広範なST,T変化を認めた.また文献的にみても本症例における心筋病変はカテコールアミンの一次的な作用が背景にあると考えられるが,臨床的には,冠動脈スパズム後の急性心筋梗塞の合併による可能性も考えられた.

著者関連情報
© 公益財団法人 日本心臓財団
前の記事 次の記事
feedback
Top