1990 年 22 巻 9 号 p. 1093-1098
症例は59歳男性胸部圧迫感と呼吸困難で近医に入院したが,その7日後にショック状態となり,当院に搬送された.心タンポナーゼの状態で,血性心嚢液排液後,症状は改善した.冠動脈造影で,右冠状動脈領域に著明な血管新生像と,腫瘍濃染像を認めた.その後,症状の悪化なく,39病日にいったん退院し経過良好であったが,初回入院時から約5カ月後に右血胸水の状態で再入院となった.2回目の冠動脈造影では,腫瘍濃染像は増大し,右冠状動脈はその遠位部において完全閉塞しており,左冠状動脈からの側副血行により造影された.ダイナミックCTで,右心房に主座を置く,血管に富む腫瘍の存在が認められた.この時点で,本例は血管肉腫であり,その一部が破綻して心タンポナーデ,血性胸水をきたしたものと臨床診断し,放射線療法を行ったが,発症より7カ月後に死亡した.剖検では,右心房原発の血管肉腫が証明され,多発性肺転移・副腎転移も認められた.
本症はまれな疾患で,生前診断は難しいとされ,血管造影の診断的意義についても一定の見解が得られていない.本例において,短期間に腫瘍濃染像の増大を認めたことは,本症における血管造影上の興味深い所見と思われた.