心臓
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症例 ST上昇時に正常冠動脈造影所見を呈した5-FU投与後狭心症の1例
塙 晴雄寺邑 朋子土田 兼史朱 敏秀佐々木 祐幸岡崎 裕史柴田 昭
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1992 年 24 巻 5 号 p. 562-568

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抄録

症例は59歳男性で診断は下咽喉癌(未分化型扁平上皮癌).当院耳鼻科で第1日目シスプラチン100mgと第2日目から5日目まで5-FUを1,000mg/日点滴静注した.1クール終了日の5-FU投与後17時間後,突然激しい胸部圧迫感が出現,心電図にてII,III,aVF,V3~V6で著明なST上昇を認め,急性心筋梗塞症を疑い当科に転科した.発作15分後血圧70mmHgと低下,ドパミンで血圧を維持した.硝酸剤の舌下後も胸痛,心電図とも改善を認めず,PTCR目的で発症1時間20分後,ST上昇の最中に冠動脈撮影を施行したが,両冠動脈共狭窄や攣縮を認めなかった.心臓カテーテル検査の途中から胸痛とS T 上昇の軽減がみられたがその後も100mmHg前後の血圧を維持するのに塩酸ドパミンを3日間要した.心筋酵素の逸脱はなく,3日後にはST上昇は基線に戻った.5-FUによる心毒性と考え,以後5-FUの投与はせず耳鼻科的に手術を受け,術後経過は胸痛もなく良好である.
本症例は胸痛の持続とST上昇の最中の冠動脈造影所見から,5-FUの心毒性の機序として従来有力と考えられている冠動脈造影で可視的なspasm説とは異なる機序が考えられた.

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