1992 年 24 巻 5 号 p. 569-575
冠動脈閉塞に起因したと考えられる運動誘発性心室性頻拍が冠血行再建術後,消失した19歳の男子例を経験した.本症例は3歳と5歳の2度川崎病に罹患し,右冠動脈完全閉塞と左前下行枝に99%閉塞を残した.運動負荷心電図ではII,III,aVF,V3~6に虚血性ST低下があり,17歳以後,先行洞拍数130bpmで再現性のある運動誘発性心室性頻拍(VT)を認めた.VTはrate214bpm,右脚ブロック兼左軸偏位型で非持続性であった.VTは運動制限とpropranolol,mexiletineでコントロールされていたが,その後14.3秒の洞停止によるAdams-Stokes発作を起こした.交感神経β遮断剤の影響が考えられ,内科的治療の継続が困難になったため,19歳時に両側内胸動脈を冠動脈segment2,segment7に吻合するバイパス手術を行った.術後経過順調で,術前の運動負荷心筋シンチグラフィーでの前壁中隔から前壁および下壁にかけての灌流欠損は改善し,運動負荷心電図では最大心拍数187bpmでII,III,aVFにjunctional ST低下が軽度みられるのみで,VTは誘発されなかった.本症例は手術による虚血の改善とともに生命を脅かす不整脈の危険性が減少し,抗不整脈剤服用から解放され,社会生活への復帰が可能となった. こうした症例に対しては外科治療を積極的に考慮すべきと考えられる.