心臓
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症例 左房内浮遊ボール状血栓を伴った軽症僧帽弁狭窄症の1例
藤井 信一郎田中 景子清水 正樹込田 暉夫渡辺 克仁山中 羊吾南 智之小出 司郎策
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1992 年 24 巻 5 号 p. 576-582

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抄録

症例は73歳女性.左半身麻痺,意識障害で入院.胸部X線写真でCTRは70%.頭部X線CTで,低吸収領域を認めた.断層心エコー図では左房内に可動性を有する2.8×2.2cmのボール状エコーを認めた.それは不規則な周期で,一定方向に旋回し,拡張末期には僧帽弁口に近づき,時には嵌入するような動きを示した.心エコー図のみにて,僧帽弁狭窄を主とする連合弁膜症に伴う浮遊ボール状血栓と診断し,5日後に手術を施行した.しかし,すでに左房内には存在せず,心耳内血栓除去と弁切開術を施した.術中,両側大腿動脈を触知しないため,腹部大動脈のsaddle embolismと考えFogatyのballon thrombectomyを施行した.
僧帽弁狭窄症においても,左房内に浮遊ボール状血栓を生ずることは比較的まれである.自験例は心房細動を有しているが,手術および心エコー図所見より,弁狭窄の程度は比較的軽度で,左室機能低下を示す所見はなかった.凝固・線溶系検査では, 凝固系マーカー(fibrinopeptide A,thrombin-AT IIIcomplex)と,線溶系マーカー(D-dimer)とが著しい高値を示し,共に亢進状態にあった.これら所見を,術前および血栓除去・弁口開大後に認めたことは,かかる検査が,心内での血栓準備状態の診断に有用であることを示唆している.自験例同様,文献的にもボール状血栓例では,心エコー法で発見後,大部分が1週間以内に塞栓症を発症している.手術摘出例の予後は良好であるため,すみやかに手術をする必要がある.

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