1992 年 24 巻 5 号 p. 583-588
我々は,間歇性楽音様心雑音を呈する梅毒性大動脈弁閉鎖不全症の症例を経験した.
症例は72歳男性,下肢浮腫,呼吸困難を主訴に来院した.胸骨左縁第3肋間に拡張期間歌性楽音様雑音を聴取し,心音図では約150Hzの拡張期雑音が記録された.Mモード心エコー図では大動脈弁に規則的な振動が記録され,断層心エコー図では大動脈弁右冠尖の一部が左室側に反転する所見が得られた. パルスドップラー法では, いわゆるharmonic patternが記録された.以上の所見は楽音様雑音の出現時のみに認められ,非出現時には認められなかった.よって楽音様雑音の音源は,拡張期に反転する右冠尖の一部の規則的振動と考えられた.カラードップラー法では3度の大動脈弁逆流が記録され,雑音の有無にかかわらず一定であった.楽音様雑音の出没には,呼吸,血圧,体位は無関係であり,亜硝酸アミル負荷もその出没に影響を与えなかった.血清梅毒反応陽性(TPHA2+,ガラス板法2+)であり, 梅毒性大動脈弁逆流と考えられた. 間歇性楽音様雑音を呈する大動脈閉鎖不全症の報告は数少なく,その音源が非侵襲的に同定された,まれな症例と考えられた.