理科教育学研究
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原著論文
論理的推論に基づく仮説形成を図る教授方略に関する実証的研究
益田 裕充柏木 純
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2013 年 54 巻 1 号 p. 83-92

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抄録

子ども自らが予想や仮説を持ち観察・実験で検証することが現行学習指導要領のもとで重視されている。こうした仮説の発見について,パースは第三の科学的思考の様式としてアブダクションの存在を指摘している。そこで,本研究は,仮説発見のためのアブダクションに着目した。米盛の指摘を援用し,理科授業においてアブダクションは「驚くべき事象の観察と,その驚きを解決するための説明の局面」と「事象を説明するための仮説を導き出す推論の局面」に基づいて成立しているととらえ,「驚くべき事象を観察し,これを解決するための説明の過程」「事象を説明するための仮説を導き出す推論の過程」の2つの局面を理科授業の導入過程に組み込んだ。こうして,「論理的推論に基づく仮説形成」を図り,それが質量保存概念の形成にいかにつながるのか,小学校第5学年ものの溶け方の授業で実証的に検証した。授業者は,食塩と水の関係を問うことで,創造したモデルを用いて「合体している」等の考えを子どもから引き出した。溶けた食塩と水を形のあるモデルとして創造し,クラスで共有させ,その関係を考えさせることで仮説形成を図る方略が,多くの子どもに浸透した。本研究によって,論理的推論による仮説形成を目途とした導入の過程が,小学生の質量保存の科学的な概念形成につながる過程を実証的に検証することができた。

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© 2013 日本理科教育学会
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