抄録
本稿の主題は, 理科の学校設定科目「生命科学」(2単位)から得られた「生命」に関する集団内の意識の変容・発達に関する考察である。教科学習では, 教師から子どもに一斉授業という方法で, 設定された目標に向かって, 知識や技能を効率的に伝えることを目標として行われてきた。そこでは, 生命観や倫理観が問われる生殖医療などの問題群に応えることは難しかった。このような問題群は, 「科学によって問うことはできるが, 科学によって答えることのできない問題群からなる領域」というトランス・サイエンスであり, 文化・歴史と深くかかわるためである。そこで, 学校設定科目「生命科学」では, 進化史をナラティブアプローチし, 様々な実験・実習を取り入れ, 専門家との協働的学習やテーマ別発表を行った。「命の選択」という生殖医療の問いに関する回答を分析することによって, 生命誌の学習や専門家との協働的学習, テーマ別発表が, 生徒たちの生命観を豊かにし, 総合する力を育むことが示された。