理科教育学研究
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原著論文
簡易採集法で得た土壌センチュウの観察
―中学校理科での授業実践から―
上野 宜久澤田 一彦岩堀 英晶多賀 優
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2019 年 60 巻 2 号 p. 279-289

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抄録

様々な動植物の観察から生物の多様性や生命を体感することは理科教育の重要課題の一つである。しかし,土壌動物は,植物に比べて準備に必要な教員の知識が十分ではなく,現場でほとんど採用されていない。土壌動物観察授業が可能になると,身近な動物の観察の幅が飛躍的に拡がり,生物多様性に対する理解や生命観の醸成に資すると期待できる。そこで,土壌センチュウの採集方法を教育現場に最適化して開発し,教員に多くの知識や準備を要求しない観察授業の実践を試みた。授業前後に実施したコンセプトマップから,土壌動物の活発な運動を観察したことによる生物・生命に対する生徒の意識変化と経験値の積み上げが確認された。線虫という概念ラベルは,予め提示したにも関わらず授業前には限られた生徒にしか使用されなかったのに対し,授業後にはほとんどの生徒に土壌と関連づけて使用されていた。使用されたつなぎ言葉の変化等から,身近な土壌における生物多様性の認識や生命観の変化などが読み取れた。これらの結果から,センチュウの観察授業がこれまでの授業内容では代替えし難い独自性を有し,生物多様性の理解や生命観の醸成にその機会を提供するものと考えられた。

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© 2019 日本理科教育学会
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