理科教育学研究
Online ISSN : 2187-509X
Print ISSN : 1345-2614
ISSN-L : 1345-2614
資料論文
大学の生物学の授業での分子模型を用いたグループ学習の実践
―学生の意欲を高めるための学習課題とグループ構成からの考察―
小長谷 幸史寺木 秀一
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 60 巻 3 号 p. 687-694

詳細
抄録

近年,化学と生物学の境界的な領域である生化学,分子生物学,有機化学などの分野が著しく発展している。これらの分野で扱われる生体分子を学ぶことは生命科学系統の大学で学ぶうえでの重要な基礎となっているが,苦手意識を持つ学生も少なからず存在している。分子模型を用いた生体分子の学習は分子の形を実感を伴い理解するために有効な手段であるが,高分子化合物を扱う場合には分子模型に不慣れな学生は作業に時間がかかることや模型のセットに含まれる部品数などが制限要因になる場合がある。このような状況に対して,模型の組み立てをグループ学習の授業形式をとり,協働して作業をすることで時間の制約は緩和され,複数セットの分子模型をグループ内で共有することで部品数不足の問題も解消されると考えられた。そこで本研究では大学の生命科学系学部1年生の,入学時に行ったプレイスメントテストの点数が最も低かったクラスの生物学の授業で,生体分子への理解を深めるために分子模型を利用したグループ学習を行った。グループは3〜5名にして,脂質,糖質,アミノ酸,ペプチドおよび核酸に関する分子を組み立てる作業を行った。模型の課題ではグループ学習で学生が組み立てた模型の構造に間違いがあった場合でも,軽微な修正を指示するだけで完成させることができ,全てのグループがほぼ全ての課題を完成させることができた。また,授業の最終日に筆記試験による到達度の確認を行った結果,過去の授業ではわずかにみられた正答率20%未満の学生がみられなくなり,正答率40%未満の学生にも減少傾向がみられたことから分子模型を組み立てることにより学生の理解が深まったことが推察された。このことから,分子模型というツールを用いたグループ学習は,学生の協調性を育み,それにより化学と生物学およびその境界領域を学ぶための基礎を学ぶことに有用であることが示唆された。

著者関連情報
© 2020 日本理科教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top