2021 年 62 巻 1 号 p. 275-288
本稿は,「複数の思考モードの共存」という観点から子どもの概念理解を論じているConceptual Profile Theory(CP理論)に着目し,個人の思考特性を扱う科学概念理解研究としてのCP理論の特質の究明を目指したものである。従前の主要な概念変容研究の諸理論に照らしてCP理論を分析することにより,以下の特質を指摘した。第一に,概念の意味の安定性のメカニズムに焦点化し,概念理解を「意味づけ」として規定していること。第二に,思考モードの有効性と発生の順序とを切り離して概念理解を異種混交的に組織化することにより,直面する概念使用のコンテクストに応じた思考モードの選択という観点から個人の思考特性を論じていること。第三に,科学学習を通じて学習者が科学的な思考モードの適用範囲を認識することを標榜していること。第四に,Vygotskyの発生的分析を重視することによって概念理解の分析の方法論に通時的・発生的な次元を導入していること。