本研究は19–20世紀転換期のアメリカ合衆国におけるハイスクール教科「生物学」(biology)の変遷過程を解明するものである。当時用いられていた教科書や実習書,各種史料を用いて研究を行った結果,1880年代にハイスクール教育課程に導入されてから1920年頃までの間について目的論,内容論,方法論の3観点から大きく2期に分けられた。さらに発展的学習のための準備から生活のための準備への目的・目標の変化,また,植物学的領域と動物学的領域の2分野構成からそれらに人間生理学的領域を加えた3分野構成へ,人体や日常生活との関連の充実,嗜好品に関する学習の強調等の学習内容の変化,帰納的解剖実験から演繹的実証実験へ,季節に合わせたシーケンスへといった学習方法の変化が確認された。そして,これらの変化の要因は公衆衛生の発展,嗜好品に対する認識,優生学思想の浸透,生物学の学問的成熟,学会等による報告・提言,大学との関係,生徒のニーズ,学校運営等の側面から解釈された。1920年以降の「生物学」の歴史的展開の究明が今後の課題である。