2021 年 62 巻 1 号 p. 49-60
コンピテンシー指向の化学教育の展開にあって,とりわけコンピテンシー育成の視座から,学習の「文脈」が重視される傾向にある。本稿ではまず,その背景として,文脈がコンピテンシーという能力概念と不可分な要素と捉えられていることを指摘した。そして,ドイツNRW州ギムナジウム前期中等教育化学の学校内教授計画の範例を事例に分析し,コンピテンシー指向の化学教育における文脈設定の特質として,次の4点を明らかにした。(1)「持続可能性」など,特定のテーマと密接に関連付けて記述されるコンピテンシーについては,設定される文脈もそのテーマに応じたものにある程度限定されていること。(2)探究(実験)を実施したり,結果を記録,表現したり,化学学習の多くの場面で求められるようなコンピテンシーについては,広範にわたる内容の文脈が設定されていること。そしてその意味は,多様な文脈を用いることこそが当該コンピテンシーの育成にとって不可欠であるという点に見いだされること。(3)個人的領域,社会的領域及び科学・技術的領域由来の各文脈が,3学年を通して比較的満遍なく設定されていること。(4)同じ類型の文脈であっても,設定する学年によって,重点的に育成を目指すコンピテンシーが変わること。