抄録
皮膚症状も含めた種々のストレスは,かゆみで身体化され,掻く,叩く,擦るなどの行動で発散される。ストレス対処行動ともいえるこれらの行動は毎日行われているうちに習慣化し,itch-scratch-cycle を巻き込んで難治・重症化していく。難治化した患者の多くは,掻破行動,かゆみ感覚,アトピー性皮膚炎にとらわれており,中には掻破行動依存症ともいえる状態に発展する患者もいる。
心理面に介入していくためには,まず,薬剤で皮膚炎を落ち着かせ,悪化因子の検索とその除去を心がける。皮膚症状という身体的苦痛をできるだけとっておくことが必要である。そして掻破行動の習慣化に対する予防および治療を試みる。掻破行動に対し心理的依存が強い場合,「掻くな」と指導するより,生き方や考え方の転換をめざし心理的指導を行う。
重症・難治化を防ぐために皮膚のバリア機能を保たせることが必要であり,発症初期からのスキンケアの大切さが叫ばれている。筆者は,同時に心のバリア機能も成長させるべく,母親にアドバイスしていくことも大切であろうと考えている。(皮膚の科学,増18: 31-35, 2012)