2022 年 21 巻 1 号 p. 34-38
69歳,女性。初診の 1 ヶ月前より,両上肢,体幹に水疱,紅斑が出現し,近医にて伝染性膿痂疹が疑われ,抗菌薬の内服,外用で加療されたが軽快しないため,当科を受診した。初診時,背部,両上肢にびらん,痂疲,色素沈着をともなった軽微な浸潤性紅斑や緊満性水疱を認めた。病理組織学的所見では再生上皮を伴った表皮下水疱を認め,蛍光抗体直接法では C3 が基底膜に線状に沈着していた。また,CLEIA 法による血清抗 BP180 NC16A 抗体,抗デスモグレイン 1 抗体,抗デスモグレイン 3 抗体,ELISA 法による血清抗 BP230 抗体はすべて陰性であった。ヒト皮膚表皮抽出液を用いた免疫ブロット法において BP230 が陽性であった。プレドニゾロン 15 mg 内服投与を開始し,糖尿病治療のため 2 年半内服していたテネリグリプチンを入院 9 日目より中止した。以後皮疹は速やかに改善傾向を示し,プレドニゾロンも漸減,50日後に中止したが,皮疹の再燃はなかった。近年,経口血糖降下薬である dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬内服後に発症した類天疱瘡が多く報告されており,自験例のように ELISA/CLEIA 法にて抗 BP180 NC16A 抗体は陰性で,ELISA 法にて全長BP180 抗体が陽性である症例が多いといわれている。また,自験例では免疫ブロット法で BP230 抗体が陽性であった。近年の研究では抗 BP230 抗体が水疱性類天疱瘡における水疱形成に関連している可能性も示唆されており,今後その役割について検討していくことは DPP-4 阻害薬関連類天疱瘡の発症機序を考えるうえで意義があると考える。 (皮膚の科学,21 : 34-38, 2022)