72歳男性。 2 ヶ月間持続する右前腕の腫脹を主訴に当科紹介受診となった。MRI 検査により STIR 像で高信号を示す筋肉のびまん性変化がみられたため整形外科を受診した。筋生検を予定していたところ左側腹部に直径 3cm,高さ 1.5cmの発赤と圧痛を伴う,辺縁はなだらかに隆起した表面平滑な,表皮と癒着し下床と可動性良好な弾性硬の腫瘤が出現していたため,筋肉と同時に生検を施行した。病理組織学的検査の結果,低分化腺癌の転移であったため全身検索を行ったところ,胃癌の筋肉内転移と判明した。悪性腫瘍の筋肉内転移は稀であり,過去の報告から原発腫瘍は肺癌,乳癌が多い。原発巣を胃癌に限定した場合,筋肉内転移は男性に多く,転移巣は体幹,特に傍脊柱の筋肉への転移が多い傾向があった。また,筋肉への転移巣は通常腫瘤性病変となることが多いが,自験例ではびまん性の病変であったため原発・転移性腫瘍以外も鑑別に挙げる必要があった。 (皮膚の科学,21 : 119-125, 2022)