社会政策
Online ISSN : 2433-2984
Print ISSN : 1883-1850
投稿論文
宣教医パームの活動にみる明治初期医療伝道の意義
熊沢 由美
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 9 巻 1 号 p. 109-121

詳細
抄録

 明治初期に西洋医学が普及する過程では,医師数など,さまざまな混乱や問題が考えられる。本稿の関心はこうした時期の医療保障にあり,医療保障の重要なアクターとしてキリスト教の医療伝道に注目した。1875〜83年まで新潟県に滞在した宣教医パームを事例に,その意義を考察した。 新潟県の事例から見えてきたのは,西洋医学への移行期における地域の実情であった。医育機関ができても,西洋医は微増に留まった。ドイツ医学にもとづく医育機関の整備は,東京に約10年遅れた。医療関係者や住民の西洋医学の受容の度合いも一様ではなく,地域によっては嫌悪感すら見られた。 パームの医療伝道は,新潟県の人々に西洋医学の受診と医育の機会を提供し,西洋医学の受容を促した。国の政策を補い,医療保障の重要な役割を果たしたと言える。医療伝道の行われた地域があったことは,日本の医療史において記録されるべきことである。

著者関連情報
© 2017 社会政策学会
前の記事 次の記事
feedback
Top