抄録
環境型光電子分光法 (NAP-XPS: Near Ambient Pressure X-ray Photoelectron Spectroscopy) は、超高真空下ではなく、準大気圧領域の環境下にて、試料の化学状態を観測する手法であり、近年特に触媒、電池分野において注目されている手法である。しかしながら、環境下では試料のスパッタリングが行えないため、試料の表面の状態観測に限られていた。
試料の表面から内部までの深さ方向の化学状態分析を可能とする有力な手法として、硬X線光電子分光法(HAXPES: HArd X-ray Photoelectron Spectroscopy)が挙げられる。HAXPES は近年の放射光の高輝度化と共に大きく成長を遂げてきた手法である。HAXPES は高いエネルギーの励起光を用いることにより、飛び出す光電子の運動エネルギーを大きくすることによって、検出深度を稼ぎ、非破壊で試料の内部の情報を得ることができるという特徴を持つ。一方で、高い運動エネルギーの光電子を検出する為には、検出器に印加する電圧の負荷も大きくなり、放電を防ぐ為には良好な真空状態を必要とされる。
BL24XU ではこの二つの手法を組み合わせた、準大気圧領域の環境型硬X線光電子分光 (NAP-HAXPES: Near Ambient Pressure Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy) を導入し、環境下において表面から深い領域までの化学状態の観測を可能としている[1]。本課題では NAP-HAXPES の更なる技術展開をめざして、時分割角度分解 (TARPES: Time division and Angle Resolved Photoelectron Spectroscopy) スペクトルデータ解析技術を開発し、多層積層膜界面深さ分布の時空間可視化に挑戦した。