2019 年 8 巻 2 号 p. 95-110
直接体験することができない出来事のイメージの構築にマスメディアが関わるのは当然のことであり,歴史的な出来事に関してもそれは同様である。しかし,その情報の正確さには疑問が残る。マスメディアの影響力を利用した政治的目標の追求に関する文献は多く,マスメディアによる「国家の過去」や他国に関する表現の偏りの原因をナショナリズムと関連付ける物もある。しかし,国家の集団記憶の再構築の際,他国の人物が省略される現象についての文献は少ない。
本稿では,2017年8月1日から2週間,日本の6つテレビ局の内容を24時間録画し,杉山(2010)の方法論を用いて分析した内容をまとめている。この結果から,日本のテレビを通した第二次世界大戦の集団記憶の再構築の際,他国の人物の描写は明らかに少なく,「過少表現」されていることは明白であった。一方,調査対象には自己批判的な番組もあった。これは歴史問題について「反省のない日本」の主張に疑問を呈するものであり,ナショナリズムを通した「歴史の偏り」という一元的な説明に対する新たな答えへの足掛かりとなるに違いない。