抄録
大気・海洋間の運動量・熱・CO2乱流輸送における促進力として海上風速は重要なパラメータである。したがって、全球規模で海上風速を観測可能な人工衛星データが有用である。人工衛星による海上風観測は、マイクロ波散乱計・放射計が用いられる。海上風速・風向のみであれば、マイクロ波散乱計が高解像度で全球観測に優れているが、軽量であり関連した他の観測パラメータを同時に観測できるという利点からマイクロ波放射計を搭載した人工衛星も多い。現在の最新では、SAC-D/Aquarius(Saterlite de Aplicaciones Cientificas-D/Aquarius)が海表面塩分濃度の観測目的で海上風速もマイクロ波放射計で観測している。また、最近グリッド化されたLevel 3データの配布が開始されたため、精度検証をすることが重要である。本研究では、SAC-D/Aquariusの風速Level 3データをブイデータと比較することで精度検証を行った。ブイデータは、TAO(Tropical Atmosphere Ocean)/TRITON(Triangle Trans-Ocean Buoy Network)ブイ(26点)、PIRATA(Pilot Research Moored Array in the Tropical Atlantic)ブイ(16点)、RAMA(Research Moored Array for African-Australian Monsoon Analysis and Prediction)ブイ(20点)、NDBC(National Data Buoy Center)ブイ(19点)である。データ使用期間は2012年の一年間とした。全球規模におけるブイ風速に対するSAC-D/Aquarius風速のRMS差を算出した結果、1.76 m/sとなり公証測定精度1.5 m/sより高く、精度が悪いことが示された。また海域毎に分けてRMS差では、インド洋、北大西洋、北太平洋が、それぞれ1.73、2.15、2.49 m/sと精度が悪く、赤道太平洋、赤道大西洋は、それぞれ1.46、1.30 m/sで精度が良かった。全体的な傾向としてSAC-D/Aquarius風速がブイ風速より大きく見積もる傾向も示された。