本稿の目的は、アクセル・ホネットの物象化論の内実と意義を検討することである。
ホネットは、自身の承認論に基づきジェルジ・ルカーチの物象化概念を再定式化している。ホネットによれば、承認は個体発生的にも原理的にも客観的認識に優先し、社会的相互作用の成立の条件をなしている。物象化は、この本来的な人間実践としての承認の忘却、つまり対象を客観的に認識するさいに承認への注意が低下することを意味する。ホネットは、この考え方に基づき、物象化の三つの形態(他者の物象化、自然の物象化、自己物象化)をそれぞれ捉え直すとともに、それらの社会的な背景要因を考察している。
ホネットの物象化論は、承認概念の深化と拡張に基づいており、物象化に対する批判の根拠を社会内在的に取り出していること、本来的実践としての承認と客観的認識との二者択一図式を越えていることにその特質がある。その一方で、物象化の歴史的固有性や社会構造との関連が十分に考察されていないことが、課題として指摘できる。