抄録
【はじめに】
目的活動とは,自らの意図がゴールへ方向付けられた行動でかつ個人にとって意味がある課題である.そのため同じ動作を繰り返し訓練する際にもその動作の目的を持つ方がより効果的であるとされる.今回,交通外傷により広範な脳損傷を発症し,重度片麻痺や自発性の低下・注意障害など高次脳機能障害を呈した症例の理学療法を経験した.訓練室での指示による動作獲得が困難であったため,実生活の場面において動作の目的を明確にすることで課題が明確となり,ADL獲得を図ることが出来た.その経過とアプローチについて若干の考察を加えて報告する.
【症例紹介】
44歳女性.頭部外傷,左片麻痺.左利き.平成18年9月26日受傷.開頭血腫除去術施行後ICU入室.MRI所見上,両側前頭葉~右頭頂葉にかけてびまん性軸索損傷が認められた.10月17日一般病棟に転棟し離床開始となったが.訓練室では指示が入らず動作獲得訓練は難航した.平成19年3月2日回復期病棟へ転棟.その時点の評価では,Brunnstrom Stage上肢2手指1下肢2.精神機能は,自発性評価表トイレ0点.左半側空間無視・注意障害などの全般的高次脳機能障害が認められた.ADLはFIMトイレ動作1点.排泄は尿意の訴えがなく,オムツ使用であった.
【アプローチ】
排泄のように目的のある生活場面では自発性が見られたため,訓練室での基本動作獲得を中心とした訓練から,病棟の実生活を通しての動作獲得訓練に切り替えた.具体的には排泄に関連する起居,移動,移乗,衣服着脱などを一連の動作として捉え,患者の排泄に対する目的意識から動作獲得の必要性を認識させるようにアプローチした.内容として排泄時間帯に合わせてトイレへ誘導し,自室からトイレまで車椅子駆動を促した.下衣着脱の際に過大な介助を要しており,立位保持力低下がトイレ動作を獲得する上で一番の問題点として考えられた.そこで訓練室にて立位バランス・荷重訓練も平行して行った.また,介助方法が統一できるよう病棟と連携し,病棟での動作の汎化を目指した.
【結果】
1ヵ月後,尿意がおきたときにトイレまでの自発的な車椅子移動が可能となり,また立位保持での下肢の支持性は向上した.その結果下衣着脱には若干介助を要するものの,近位監視にて一連のトイレ動作が可能になった(FIMトイレ動作4点).身体機能に変化はみられなかったが,精神機能は自発性評価表トイレ3点と向上し,左半側空間無視や注意障害も改善していた.
【考察】
自発性低下や指示入力困難の場合,訓練室では患者の自発的な動作は得られにくい.本症例の場合,訓練室よりも生活場面の方が動作の意味を見出しやすく,トイレ動作遂行という目的が意識化できたことで,自発性向上につながったと思われる.実際の生活場面から動作訓練の目的を意識付けることが重要であると考えられた.