抄録
【はじめに】
今回,喀血から急性呼吸不全を来たした肺癌症例に対し,理学療法(PT)を実施し,化学療法導入できるまでに全身状態が回復した.化学療法施行中もPTを継続し,活動性が低下せずに退院に至った症例を経験したので報告する.
【症例】
73歳男性,平成18年7月右肺腺癌と診断,10月右下葉切除術予定であったが,悪性胸水のため試験開胸術となり,化学療法導入の方針の説明を受け,一時退院となった.11月大量の喀血により入院,右肺動脈へのリンパ節転移の浸潤による出血と判断,急性呼吸不全を来たしたため,左片肺挿管施行となり,ICU入室となった.入院6病日には止血し両肺換気となり,徐々に酸素化・胸部X線上も改善され,10病日抜管, 13病日よりPT開始した.
【PT内容と経過】
痰の貯留を認めたため,PTは排痰と換気の改善を目的にギャッジアップや坐位を行った.排痰は自己排痰(ACBT)を指導した.入院当初は肺癌に対する治療は実施しない方針であったが,呼吸状態改善に伴い化学療法導入が検討された.導入条件として全身状態の改善が必要であったため,再喀血の危険性は高かったが主治医より本症例と家族に説明し了承を得て筋力トレーニングや歩行を進めた.PT施行時はSpO2や脈拍の変動に注意して自覚症状を確認しながら実施した.
入院から約1ヵ月後,独歩にて70m連続歩行可能となった.歩行時のSpO2は82%へ低下したが,本症例は酸素導入を希望せず安静時低酸素血症を認めなかったため,酸素なしで休憩を入れながらゆっくり歩行するように指導した.また,入浴や再喀血に対する不安があり,入浴時は前傾姿勢で呼吸困難が増強したため,坐面の高い椅子を使用し,十分休憩を入れ,深呼吸を行うように指導した.本症例の希望で,年明けより治療開始と決定し,ヘルパーの利用など環境を整え一時退院となった.
翌年1月4日再入院,精査後,11日より化学療法開始となった.入院後より歩行時SpO2低下と労作時呼吸困難の増強に伴い,労作に対する不安が強くなり活動性が低下していたためADL維持目的でPT開始となった.歩行時は酸素流量を増やし,血痰も認めたため痰量や自覚症状をみながら休憩や歩行距離を調整するように指導した.結果,入院中はADLが維持でき,副作用もみられず,次第に不安が解消されHOT導入して,化学療法開始から約2ヵ月後に退院となった.
【まとめ】
本症例では,呼吸困難などの症状が強く再喀血の危険性があった中でも,バイタルサインの変動に注意して離床を促したことや動作時の工夫にて活動性が高まり,肺癌に対する治療が可能となった.治療中も全身状態や自覚症状をみながらPTを進め,HOT導入や動作時の工夫を加えることでADLが維持でき不安も解消されたと考えられた.肺癌により予後が限られ,リスクもある中で,治療方針や不安解消に貢献するための手段を考え,アプローチすることが重要であると思われた.