抄録
【はじめに】
脊髄損傷における症状の一つである痙性は、二次的合併症を引き起こす可能性があり、Nortonらは運動パフォーマンスに強く影響を与える因子とも報告している。近年、バクロフェン髄空内投与(intrathecal baclofen: ITB)による痙性の抑制が注目されており、経口バクロフェン治療後の歩行に関する報告は散見されるも、髄空内投与後の歩行に関する報告は少数である。今回、頸髄損傷者におけるITBスクリーニング後の痙性等の身体機能変化と歩行動作を含むADL機能の変化を検討した。
【対象】
対象はITBスクリーニングを実施される頸髄損傷者男性3例(58.0±6.6歳、164.4±7.2cm、70.0±12.2kg)であった。全症例ともに補助具使用の有無問わず、最低10m歩行可能であるFrankel Dであった。内訳は、独歩1例、T字杖2本1例、pick up walker 1例であった。罹患期間は16.3±12.9年であった。
【方法】
対象者は医師によりバクロフェンをL3/4間に50μgを投与された。評価は投与前および投与4時間後に実施された。評価項目は、両下肢のModified Ashworth Scale (MAS)、膝蓋腱反射 (PTR)、足クローヌス検査、Berg Balance Scale (BBS)、Modified Barthel Index (MBI)、10m歩行時間、歩幅とした。また、主観的に容易となった動作と困難、違和感な動作を症例よりアンケートにて採取した。
【結果】
投与4時間後には、全症例ともにMAS、PTR低下、足クローヌス消失を認め、MBIは変化を認めなかったが、細かなADL(靴の着脱、foot restへの下肢の乗り上げなど)の改善を認めた。BBSに関しても軽度の改善傾向を示した。10m歩行時間、歩幅において変化を示さない症例が2例に対し、もう2例は時間の短縮および歩幅の増加を認めたが、下肢の振り出しに違和感を示していた。
【考察】
全症例ともに静的肢位での筋緊張の低下を認め、細かなADLの向上につながったと考えられる。歩行に関してPatriciaらは経口バクロフェン治療において痙性を持つが歩行可能な症例の歩行能力向上を示すことができなかったとしている。我々の結果では適度な痙性の低下により時間距離因子からみた歩行能力の変化を認めた症例とそうでない症例が存在し、前者にとっても歩行能力は大きく変化しなかった。これらは、受傷期間が長期であることから筋緊張は低下したものの二次的な筋力低下や筋萎縮等の混在が原因で下肢の振り出しにも違和感を示したと推測され、更なる歩行能力の向上を図る為に投与後におけるリハビリテーション併用の必要性も考慮された。