主催: 東海北陸ブロック理学療法士協議会
【はじめに】
心原性脳塞栓症は,主幹動脈の閉塞により広範梗塞をきたしやすく,脳梗塞のなかで最も予後不良な病型である.さらに,出血性梗塞の合併は,意識障害の遷延化や全身状態の悪化を来すため,リハビリテーションの目標設定に難渋する.
出血性梗塞は,高齢や脳梗塞重症度とは独立した予後不良因子であると報告されているが,転帰に強く関連する運動機能の回復への影響は明らかでない.そこで,心原性脳塞栓症患者を対象に出血性梗塞の重症度と運動機能の回復について検討した.
【対象】
2004~09年までの6年間に,当院にて入院加療されたテント上の心原性脳塞栓症の連続例75症例を対象とした.そのうち,再梗塞や梗塞拡大を呈した16例を除外した59例(76.8歳,男性27例)について検討した.
【方法】
入院時の診療記録,頭部MRI,MRA,CT所見を後方視的に調査し,出血性梗塞の重症度による運動機能の回復程度を比較した.
出血性梗塞の重症度は,経過中のMRI T2*強調像およびCT所見から,Fiorelliらの分類(Stroke,1999)に準じて,Hemorrhagic infarction (HI),Parenchymal hematomas type1 (PH-1),Parenchymal hematomas type2 (PH-2)に分類した.運動機能は,日本脳卒中学会 Stroke Scale委員会が報告した,脳卒中運動機能障害重症度スケール(JSS-M)を用いた.
【結果】
理学療法開始時と退院時のJSS-Mスコアの変化は,非出血性梗塞群(N-HT群)で18.99点から12.17点へ,HI群で17.32点から9.0点へ,PH-1群で23.67点から14.34点へといずれも有意に改善したが,PH-2群では27.68点から25.14点と改善がみられなかった.また,JSS-Mの改善率は,理学療法開始後1週では各群に差がみられなかったが,2週後にはN-HT群で35.9%,HI群42.3%,PH-1群27.1%,PH-2群3.6%と,HI群の改善率が最も高い傾向であった.
【まとめ】
軽度の血腫形成までの出血性梗塞は,出血性梗塞を発症しない症例と同程度に運動機能の回復が望める.また,回復速度はHI群で早い傾向にあり,点状出血は運動機能回復に悪影響を及ぼさない.