抄録
【目的】大腿四頭筋(以下QF)は大腿直筋(以下RF),内側広筋(以下VM),外側広筋(以下VL),中間広筋からなり,それぞれ異なる形態と機能を持つことから,個々の筋に対してリハビリテーションが行われている.QFの個々の筋の特性を比較した報告では,筋断面積(角田1983),筋出力(松垣1993),筋持久力(貝谷1999)など様々な観点から研究されているが,筋疲労に関する報告は少ない.筋疲労とは,継続的な筋活動により発揮できる筋力が低下することで,筋電図による筋疲労の定量化は,運動に関わる筋の疲労指標として有用である.先行研究では,25,50,75%の運動強度での40秒間の膝伸展運動におけるQF各筋の筋活動量比,中央パワー周波数(以下MdPF)の経時的変化を調査した結果,RFが疲労しやすいという報告(大畑2005)や座位での膝伸展運動におけるQFの筋出力及び筋疲労について1分間の持続収縮での積分値及びMdPFの変化を検討し,RF,VMが早期から疲労したという報告(沖田1996)がある.しかし,QFの個々の筋の疲労特性を比較した報告の数はまだ少なく,明確な知見は得られていない.疲労が生じ始める時期や主観的な疲労感は個々で異なるが,先行研究では,疲労直前までの筋電図学的変化をみていないことや主観的な疲労との関係をみていないなど検討しなければならない課題も多い.我々は,岐阜県理学療法学会において大腿四頭筋の疲労特性の傾向について報告した.今回さらに被験者数を増やし,最大下等尺性収縮時における筋活動量及びMdPFの経時的変化からRF,VM,VLの疲労特性を明らかにすると同時に主観的運動強度を用いてその変化も測定した.
【方法】対象は健常成人女性11名とし,対象者には本研究の趣旨及び手順を説明し,同意を得た.運動課題は測定肢位を椅子座位,膝関節60°屈曲位とし,最大筋力の75%の強度で膝伸展等尺性収縮を行わせた.強度の設定は大畑らやEbenbichlerらの先行研究を参考とした.測定時間は75%の強度が保てなくなった場合とした.測定項目は運動中の筋活動と主観的運動強度とした.筋活動の測定にはMyoSystem G2を使用し双極誘導法によりRF,VM,VLの筋活動電位を導出した.また主観的運動強度の測定はBorg Scaleを使用し,大腿部の主観的な疲労感を10秒ごとに記録した.データ解析には筋電図解析ソフトMyoResearch XPを用い,整流化及び50msec毎のroot mean square(以下RMS)により平滑化し,最大等尺性収縮時のRMSを100%として正規化し筋活動量を求めた.なお最大筋力はBiodex system3用い測定した.また生データを高速フーリエ変換し,単位時間におけるMdPF, MdPF値から収縮時間に対する一次回帰直線の傾きを求めた.解析方法は全ての被験者が運動課題を継続可能であった時間を100%とし,4つの時期(1期25%,2期50%,3期75%,4期100%)に分け,それぞれ平均の筋活動量,MdPF,一時回帰直線の傾き,主観的運動強度を算出し検討項目とした.統計処理は各筋における筋活動量,MdPFの経時的変化に反復測定一元配置分散分析,主観的運動強度の経時的変化にFriedman検定,筋間での一時回帰直線の傾きの違いにはKruskal-Wallis検定を用いた.有意水準は5%とした.
【結果】筋活動量は全筋において1-3期で増加する傾向があったが,有意差は認められなかった.MdPFはRFのみ1-3期間(p<0.01),1-4期間(p<0.01),2-4期間(p<0.05)で有意な低下が認められた.またMdPFの一時回帰直線の傾きはRFがVMと比較して有意な差があり,傾きが大きかった(p<0.05).主観的運動強度は1-3期間(p<0.01),1-4期間(p<0.01),2-4期間(p<0.05)に有意な差が認められた.
【考察】永田は筋疲労の評価方法の一つに筋電図周波数が低周波帯域に移行した時と定義している.MdPFの値においてRFのみに有意な低下が認められたことからRFは他筋と比較し,より早期に疲労が生じることが示唆された.QFの筋線維組成に関する先行研究によると, type_II_線維が占める割合はRFで57.2%,VLで50%以下,VMで6.3%であると言われていることからもRFは持久性が乏しく,早期から疲労が生じたことが推測された.また主観的運動強度の経時的変化は, RFのMdPFの結果と一致しているため,大腿部の主観的な疲労感は最も早期に疲労が生じているとされるRFの筋疲労が生じ始める時期を反映しているのではないかと考えられた.