抄録
【目的】 痙性内反尖足に対する選択的脛骨神経縮小術後の下肢機能として、関節可動域や痙縮の程度の改善を報告したものは散見される。しかしながら、歩行能力の改善については、自覚的な歩き易さや補装具の使用状況を質問したアンケート結果や時間的因子の報告が主であり、運動学的および運動力学的因子まで検討した報告は我々が検索した限りない。今回、痙性麻痺にて歩行動作時に疼痛を生じていたが、選択的脛骨神経縮小術後に疼痛が消失し、自覚的な歩き易さが改善した一症例の術前後の歩行を3次元動作解析にて検討した。
【方法】 対象は6年前に右視床出血にて左側痙性麻痺を呈した71歳の男性である。訪問リハビリテーションを週2-3回行っておりT字杖および短下肢装具使用にて歩行可能であるが、発症から徐々に麻痺側の尖足が強くなり、歩行時に麻痺側足趾や踵部に生じる疼痛を主訴としていた。切除神経の選択は医師および理学療法士が術前に臨床評価を行い、選択的脛骨神経縮小術が選択された。手術の手順は、膝窩部から切開にて脛骨神経を露出させ、顕微鏡視下に電気刺激にて運動神経と感覚神経を確認した。その後、術前に評価した痙性筋を支配する内・外側腓腹神経、ヒラメ筋神経、後脛骨神経の線維に対し0.3-0.6Vの電気刺激を与え、切除神経の確認の為、同時に理学療法士が触診にて収縮筋を確認し、医師が神経線維の1/4-1/3を長さ10㎜程度切除した。術後は翌日より関節可動域練習および歩行を含む基本動作練習などの理学療法を施行した。術前と術後1週時の歩行解析は、10台のストロボカメラと4枚の大型床反力計を同期した3次元動作解析装置VICON MXで計測し、解析ソフトVICON NEXUSを用いて、各歩行変数を算出した。症例に対しては、評価、治療および研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。
【結果】 時間距離的因子として、術前に比較して術後では歩行速度の増大、術側片脚支持期の増大および非術側歩幅の増大を認めた。足関節に関して、術前では常時底屈位で負のパワーの底屈モーメントを認めたが、術後では立脚期で背屈位が確認され、正のパワーの底屈モーメントを示した。また、術前に比べ術後では術側股関節の振り出し角度が増大し、術側膝関節の過伸展が消失され、術前では認めなかった術側股および膝関節伸展モーメントが出現されていた。
【考察】 術後の歩行動作において本症例の麻痺側では、立脚期における足関節背屈位の獲得や遊脚移行期に下腿三頭筋の求心性収縮を認め足関節機能が正常に近づいたことにより、膝や股関節周囲における運動力学的因子の改善が連動された歩行戦略へと変化した可能性が考えられる。術後は足関節可動域の確保の他に、パフォーマンスを重視したリハビリテーション治療の継続の必要性が考慮された。
【まとめ】 術前後の自覚的な歩き易さのみでなく、運動学的および運動力学的因子を含めて歩行戦略を把握することは、術後におけるリハビリテーション治療の方針を的確に立案できる可能性が考えられる。