アメリカ社会の分断やポピュリズム政治の広がりなどから、民主主義の危機が指摘されている。コロナをめぐっても陰謀論など、分断がさまざまに現れている。これは、冷戦の終了ののちに、こうした政治の深刻な問題状況が到来する可能性をまったく予期していなかった民主主義の理論あるいは政治理論そのものの危機でもある。今日のアメリカの分断は、大学などにおける歴史教育のあり方をめぐる対立に代表される文化戦争であり、文化戦争とは、人びとの意味世界を構成する世界知識のあいだの闘いである。ここ数十年の政治理論の失敗は、異なる世界知識のあいだの対立の深刻さに気づかなかったり、どのように対立を乗り越えることができるかについての議論が不十分であったりしたためである。他方、この文化戦争には、文系学問が広い意味での当事者として関わっている。民主主義理論は、こうした問題状況を視野に入れる形で再構築されなければならないだろう。