学術の動向
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27 巻, 9 号
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特集
ウィズ/ポストコロナ時代の民主主義を考える ─「誰も取り残されない」社会を目指して─
  • 遠藤 薫
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_11
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー
  • 山極 壽一
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_12-9_16
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     現在、私たちは人新世(Anthropocene)と呼ばれる時代にいる。それは1950年代以降に始まったグレート・アクセレーションという、人口、海外投資額、化学肥料の使用量、海外への旅行者数などに見られる急激な増加に直面していることを意味する。その結果、地球上の哺乳類のバイオマスの9割以上を人間と家畜が占め、地球の陸地の4割以上が人間と家畜の食料を生産する畑地と牧場に変わってしまった。地球の限界を示す9つの指標のうち、生物多様性とリンと窒素の循環がもう限界値を超えている。このままでは地球も人類も共倒れになってしまう。いまここで立ち止まって人類の進化と文明史を振り返り、われわれがどこで間違ったかを考えてみなければならないのではないか。それが本発表の主旨である。

  • 安中 進
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_17-9_22
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     COVID-19の発生以来、世界中で膨大な犠牲者が出ている。そうした中で、中国を代表とする権威主義国家では、市民の自由を即座に厳しく制限することにより感染抑止に成功し、犠牲を最小限に留めているという指摘がある。しかしながら、権威主義国家が報告するCOVID-19関連のデータの信頼性には多くの問題が指摘されており、こういった問題を考慮に入れた上で比較を行わなければ、権威主義国家の優位性を過大に評価する可能性が高い。また、強権的な政策は、必ずしも十分な感染抑止効果があるともいい切れず、感染抑止のメカニズムから考えても、権威主義国家の優位が立証されているとはいえない。

     本論文では、以上のような観点から、政治体制とCOVID-19の関係を分析した先行研究をまとめ、現在の研究の方向性を示す。結論は、民主主義国家が権威主義国家と比較して必ずしも不利にあるとはいえないというものである。

  • 山田 陽子
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_23-9_29
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     本稿では、コロナ・パンデミックにおける自殺について論じる。1節でパンデミックにおける自殺の概況を提示したのち、2節ではパンデミック初期の自殺の減少について述べる。3節ではE.デュルケームの「自己本位的自殺」の観点から「自粛」や「ソーシャル・ディスタンス」と孤立・孤独、自殺について考察する。4節では、デュルケームの「アノミー的自殺」の観点から「リモート・ワーク」による職住の再編と自殺について検討する。5節では、自殺予防NPOでのフィールドワークにもとづき、「死にたさ」に耳を傾けることについて考察する。6節では、自殺のケアの未来について考える。

  • 今田 高俊
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_30-9_34
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     民主主義は今、大きな岐路に立たされている。民主主義の機能不全ともいうべき兆候は、1980年代以降に国内外で現れ始めた。国政選挙への参加である選挙投票率の顕著な落ち込みがそれである。これと並行して権威主義が勢力を伸長するようになった。権威主義は民主主義よりもコロナ対応に効果的であるというデータに基づいて、民主主義のたそがれ時が訪れたとする議論が勢いを増している。しかし、権威主義とコロナ禍対応の有意な関係は見せかけの相関に過ぎない。なすべきことは民主主義のアップグレード、すなわちデジタル民主主義の構築である。本稿では、その要となる方法として、「二次の投票」と合意形成のプラットフォームである「Pol.is」を取り上げ、民主主義の新たな地平を素描する。

  • ──ポストコロナを見据えた社会理論の課題
    盛山 和夫
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_35-9_38
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     アメリカ社会の分断やポピュリズム政治の広がりなどから、民主主義の危機が指摘されている。コロナをめぐっても陰謀論など、分断がさまざまに現れている。これは、冷戦の終了ののちに、こうした政治の深刻な問題状況が到来する可能性をまったく予期していなかった民主主義の理論あるいは政治理論そのものの危機でもある。今日のアメリカの分断は、大学などにおける歴史教育のあり方をめぐる対立に代表される文化戦争であり、文化戦争とは、人びとの意味世界を構成する世界知識のあいだの闘いである。ここ数十年の政治理論の失敗は、異なる世界知識のあいだの対立の深刻さに気づかなかったり、どのように対立を乗り越えることができるかについての議論が不十分であったりしたためである。他方、この文化戦争には、文系学問が広い意味での当事者として関わっている。民主主義理論は、こうした問題状況を視野に入れる形で再構築されなければならないだろう。

  • ──社会科学の自己革新
    落合 恵美子
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_39-9_43
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     新型コロナによる在宅勤務と自宅療養がもたらす当事者と家族の負担増加について調査を実施した。いずれも家事育児やケアの負担を増加させており、しかも女性が多くを担っている。自宅療養者およびそのケアをした人たちが仕事を休業した場合、その期間の給与の扱いは雇用形態により異なる。女性に多い非正規雇用では無給休業の割合が高い。ケアという社会的に必要な労働をした人が、それを評価されないばかりか、かえって経済的不利益を被る「ケアペナルティ」が存在するのは問題だ。人口高齢化に加えて「ウィズコロナ」の「病い」と「ケア」が常態化する社会を正常に回すためには、病気療養とケアというシャドウワークを可視化し、その価値を評価して対価を支払い、経済システムに内部化することが必要だ。たとえば雇用形態にかかわらず取得できる有給の「病気休暇」および「ケア休暇」を制度化し、さらにケア手当の支給も検討すべきだろう。

  • 有田 伸
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_44-9_46
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     ウィズ/ポストコロナ社会を「誰も取り残されない」ものとするためには、まずコロナ禍の下で誰がどのような困難を抱えているのかを、その潜在的な可能性まで含めて、きちんと把握する必要がある。そのためには、現在の社会状況に即した社会調査を適切な形で実施していくことが重要な課題となるだろう。ウェブ調査をはじめとする新しい形式の社会調査は、このための有効な方策の一つであるが、このような調査形式の新しさを、調査の代表性とどのように両立させられるかが鍵となる。この両立のためには調査対象者から十分な調査協力を得ることが何よりも重要となり、このためにも、社会調査とそれによって得られた知見がどのように社会に還元され得るのかを、わかりやすく説明していくことが要されるだろう。

  • 筒井 淳也
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_47-9_49
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     コロナ・パンデミックは私たちの生活にかつてない規模と強度の接触制限を要請した。その影響は、仕事生活と私生活の両方におよび、またそれは職業およびジェンダーによって異なって(これら要因によって構造化されて)いた。接触を伴う職業(サービス、医療等)が制限され、女性や小規模企業(自営等)が偏った影響を受けた。近世社会と違い私たちの生活を職業集団が包括的に規定しているわけではないが、それでも職業や従業上の地位は社会において重要な位置を占める。調査データの分析によれば、コロナ・パンデミックに伴うネガティブな影響は職業や業態ごとに顕著な違いを示している。行政による対応は事業収入や住民税非課税といったきめの粗い条件ごとになされたが、次に来る可能性のあるパンデミックにそなえ、より解像度の高い支援のあり方を模索する必要がある。

  • 山田 真茂留
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_50-9_52
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     コロナ・パンデミックは、医療制度の弱い国や、病院へのアクセスが難しいエスニシティなどに対して、とくに厳しい影響を与える。またそれ自体はウイルスによる現象ではあるものの、この大問題と格闘していく主体は個々の人間社会にほかならず、その対処法は国や地域によって随分と違ってくる。したがってコロナ・パンデミックは単なる自然科学の対象に留まるものではなく、社会・文化・政治・経済全てを巻き込む広い意味での社会現象と言うことができよう。日本社会の場合、その対処法に関して、情報の収集や周知の仕方に難があり、また行動制限等の方針に一貫性が欠けていたため、人々の信頼を相当に損なってしまった。そして、この信頼の稀薄さには、もともと日本人が権威なるもの一般に対して深い不信感を抱いているという事情も効いていよう。このパンデミックによって日本人の信頼感がさらにどのようなものになっていくのか、注目されるところである。

  • ──社会的孤立を超えて語り合う社会へ
    遠藤 薫
    2022 年 27 巻 9 号 p. 9_53-9_57
    発行日: 2022/09/01
    公開日: 2023/01/27
    ジャーナル フリー

     コロナ・パンデミックは、民主主義の抱える脆弱性を露わにした。しかしだからといって、一部の指導者の強権に依存する権威主義体制が望ましいとはいえない。コロナ・パンデミックの経験を踏まえて、民主主義をさらに鍛え、レジリエントなものにしようとするならば、「孤立感」の殻をのりこえ、他者への信頼を前提に、相互に意見を交わし合うことが必要である。

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