抄録
症例は60歳男性.20年前より糖尿病を指摘されていたが放置していた.2005年11月末より歩行困難,食欲不振,口渇著明となり,さらに呼吸困難を訴え当院へ搬送された.ケトアシドーシスは認めず,随時血糖806 mg/dl, 著明な脱水,血漿浸透圧の上昇から非ケトン性高浸透圧性昏睡と診断した.著明な炎症反応と低酸素血症を認め,胸部CTで肺野辺縁に空洞形成を伴う多発結節影がみられ,尿,血液および右大腿皮下膿瘍穿刺培養でStaphylococcus aureusが検出されたことから敗血症性塞栓症と診断,尿路感染により形成された皮下膿瘍が塞栓源と考えられた.全身検索により,右指潰瘍,大脳皮質下梗塞,真菌性眼内炎も認めた.大量輸液,インスリン持続注入,抗菌薬投与と大腿膿瘍ドレナージにより全身状態は改善した.本症例は血糖コントロール不良の2型糖尿病患者で尿路感染から皮下膿瘍が形成され,肺を中心病変とする全身の敗血症性塞栓症を来した稀な症例と考えられた.