2019 年 62 巻 10 号 p. 667-673
症例は65歳の男性.27歳時に1型糖尿病と診断され強化インスリン療法を開始した.生活習慣の工夫とインスリン自己調節により厳格な血糖コントロールを続けてきた.X年8月,食前に睡眠をとったところ低血糖性昏睡となり救急搬送された.ブドウ糖投与により意識状態は速やかに改善した.病歴と入院時のHbA1c 5.9 %から日常的な低血糖の存在が疑われた.重症低血糖を回避するため,栄養指導やインスリン製剤の変更を行い,低血糖の危険性について改めて指導した.入院中の精査で,MMSE25点と軽度認知機能低下を認めたが,長い罹病期間にも関わらず細小血管合併症の進行は認めなかった.細小血管障害の予防における血糖管理の有用性と並んで,低血糖が高齢者の認知機能へ及ぼす影響を日常診療の中で体現した示唆に富む症例として,ここに報告する.