抄録
私たちはすでに正常妊婦の胎盤膜成分を用いたインスリンの分解系について観察し, 濃度依存性であるとともに, temperature sensitiveであることを報告した. 今回は糖尿病妊婦の胎盤膜成分によるインスリンの分解を正常妊婦のそれと比較した.
対象は妊娠前から糖尿病の存在した12名の糖尿病妊婦で, 妊娠38~40週の分娩時に得た胎盤を用いた. 糖尿病妊婦は1名のみ食事療法で他はすべて妊娠中インスリン治療がなされた. 妊娠中のコントロールは良好であった.
胎盤膜成分は, Posnerの方法で10g5ペレットを作製し, 2回洗浄したものを用いた. インスリンの分解は前回報告した方法に従いrebinding法, TCA precipitation法, immunoreactivity法およびgel-chromatography法によって観察した. 満期産の正常妊婦から得た膜成分と, 膜成分を用いず125I-insulinのみを孵置したものを対照とした.
125I-insulinは正常妊婦胎盤膜成分より, 糖尿病妊婦胎盤膜成分によって, より大きく分解されることが認められた. すなわち糖尿病では, 5分で平均21.7%, 40分, 53%, 90分で70%が分解され, 正常妊婦では5分で平均8.7%, 40分34.3%, 90分48.2%で, 両者における分解の程度の差は, 各時点で明らかに有意であった. 糖尿病で子宮内胎児死亡をおこした1例では, 正常対照の分解率と差を認めなかった.
胎盤膜成分のインスリン分解系は, 胎盤におけるインスリンの組織濃度を調節する役割を果たしていると考えられるが, なぜ糖尿病で分解系が多いかは明らかでなく, 今後更に検討を要する.