抄録
ニコチン(NC)は脳内ドーパミン神経系に対する影響に覚せい剤との共通点が確認されている薬物であるが、強い依存性は報告されていない。ただし覚せい剤との共通点のため、重篤な薬物乱用の発端となりうる危険性が示唆されてきた。NCには鎮静作用のみではなく、覚せい剤に認められるような不安惹起作用や興奮作用が報告されており、セロトニン受容体などとの関係が示唆されているが、NCの諸作用とカンナビノイド(CB)受容体との関係も報告されている。本研究ではNCの不安惹起作用と、CB受容体作用薬などの抗不安薬の影響について検討した。【方法】雄ICRマウスでの急性投与実験(NC 0.5mg/kgの皮下投与)で、高架式十字迷路法(高さ30cmの壁のあるenclosed armへの嗜好性の変化)によって不安惹起作用を評価した。またNCの不安惹起作用を抑制することが証明されているWAY 100635(5-HT1A antagonist)(Tucci, 2003)をはじめとするセロトニン受容体、ベンゾジアゼピン受容体などに関係のある抗不安薬のほか、CB受容体作用薬として、内因性CB受容体作用薬(内因性CB)、CB受容体に強い親和性をもつ合成agonistであるCP 55940、及びCB1受容体以外の脳内CB受容体に作用するといわれるO-2093の影響を調べた。【結果と考察】NCを単独で投与した場合、投与30分後の評価では不安惹起作用が認められたが、投与60分後にはそれが軽減し対照群より運動量が減少していた。WAY 100635(1mg/kgを腹腔内投与)はNCの不安惹起作用を有意に抑制したが、投与60分後の運動量は対照群より減少したままであった。またdiazepam(5mg/kg)やondansetron(0.01mg/kg)を投与した群でも、WAY 100635投与群と同様の傾向が認められた。CB受容体作用薬はNCの不安惹起作用を抑制する傾向があったが、部分antagonistであるvirodhamine (VD)(10mg/kg)の作用が最も強く、しかも内因性CBの中ではVD投与群でのみ投与60分後の運動量の回復も著明であった。CB受容体作用薬の中には、O-2093(10mg/kg)のように投与60分後のNCの作用に対してより強い影響を及ぼすものもあり、NCの作用が複数のメカニズムによることが示唆された。