抄録
近年、比較的低濃度の化学物質の長期的曝露による健康影響を評価する必要性が強く求められている。また、化学物質過敏症、シックハウス症候群や内分泌かく乱物質の環境影響研究からもうかがえるように、ある種の環境汚染物質に対しその影響を受けやすい要因(高感受性要因)の存在することが推測されている。多種類の低濃度化学物質の長期曝露による健康影響を評価するためにも、高感受性の要因を解明するための研究は不可欠である。われわれは、胎児・小児・高齢者やなんらかの遺伝的素因の保持者などの化学物質曝露に脆弱な集団の高感受性要因の解明を進め、高感受性の程度を把握し、感受性の個人差を包含したリスク評価や環境リスク管理対策の検討に必要となる科学的知見を提供する研究を一昨年度より行っている。具体的には、1)胎生期、幼児期、小児期、老年期、あるいは次世代に代表されるような時間軸の違いに着目し、化学物質曝露に対する感受性の差異を定量的に明らかにし、高感受性の決定要因を探索するものである。子供は種々の臓器や器官が未熟なため化学物質の影響を受けやすく、また、成人してからその影響が現れる可能性があるからである。2)低濃度の化学物質に対して過敏に反応する遺伝的な要因を解明するために、脳・神経系、あるいは免疫系の過敏状態を評価できるモデルの開発、および有害性の検証をすることである。3)環境化学物質と他の感受性にかかわる要因との複合曝露に基づく健康影響を評価する手法の開発、体内動態の測定および曝露評価のための手法の開発を行うことである。これまでの研究成果の概要報告と討論を行う予定である。