抄録
新生児期から成人に至る過程で、ヒトは身体的特性の大きな変化とともに身体の生理機能の質的および量的な変化を経験する。従って、成長期のヒト(小児)における治療の個別化と副作用の回避への方法論では、成人における薬物動態(PK)と薬力学(PD)の集団代表値をどのように各年齢の小児に外挿するかが問題となる。例えば、体内動態値を例に議論する場合には体内動態パラメーターを体重で標準化すべきか動態過程に関連する臓器重量で標準化すべきかが問題となる。また、高齢者でもしばしば問題となるが、PK理論にもとづく成人投与量の小児への外挿にはこの集団のPD特性が成人と類似しているかも問題となる。高齢者においては動態試験の義務化によりPKデータは徐々に蓄積されているが、PDデータの蓄積は未だに不十分である。小児においては動態試験の倫理的および実際的な困難さもありPKデータさえも不十分な薬物が多く、ましてはPDデータについては報告されてものは極めて限られている。
小児におけるPK/PDデータにおいてさらに悩ましいのは、薬物の動態過程に関係する機能分子が時間的に異なる発達変化をたどる可能性が高いことである。この問題については薬物代謝酵素の研究が最も進んでおり、特に新生児から生後1才以下の小児においては肝細胞の薬物代謝酵素分子種の発現量の発達には分子種差が存在することが示唆されている。一方、薬物の体内動態あるいはPDの個人差に関わることが注目されているトランスポーター蛋白においては発達変化の研究は少ない。このような、ヒト小児の発達に伴う身体変化と薬物のPK/PDの変化を薬物の副作用予測の観点から述べる。