抄録
【目的】NK細胞の細胞傷害活性は免疫毒性試験の検査項目であることに加えて,抗体医薬の作用メカニズムとして抗体依存性細胞傷害
活性(ADCC)が利用されるなど重要度が増している。しかしながら,一般的なNK細胞活性の測定は放射性クロムを使用するため実験
手法が煩雑であり,またNK細胞当りの細胞傷害活性に変化がなくても,末梢血中のNK細胞の存在比が低下した場合には測定値が低値
を示し,薬剤のNK細胞活性に対する影響を正確に評価できないことが考えられる。近年CD107a(脱顆粒のマーカー)の発現を指標に
した測定法が報告されている1)。この測定法は,NK細胞が細胞傷害性を発揮する際に,細胞上に表出するCD107aをフローサイトメー
ターで検出するものであることから,放射性物質が不要で,かつ末梢血中のNK細胞の存在比に左右されず,既存の方法に比較してメリッ
トが多い測定法であると言える。そこで本研究では,CD107aを指標にしたカニクイザルNK細胞活性の測定法を検討した。
【方法】カニクイザルPBMCと標的細胞(K562細胞)を抗ヒトCD107a抗体と共に 一定時間共培養した。培養後にCD3,及びNK細胞の
マーカーを染色後,フローサイトメーターを用いてNK細胞(CD3-CD16+またはCD3-NKG2A+細胞)表面上のCD107aを測定した。また,
NK細胞活性を増強するサイトカイン(IL-2)でPBMCを刺激後にK562細胞と共培養し,CD107aを測定した。
【結果・考察】(1)K562細胞との共培養によりCD16は発現が低下する一方,NKG2Aは発現が低下せず,NKG2AがNK細胞のマーカー
として適切であると考えられた。(2)NK細胞表面上のCD107aはK562細胞と共培養することによってのみ細胞表面へ発現することが
確認された。(3)IL-2処理後にK562と共培養すると,NK細胞上のCD107aの陽性率は増加したことから,CD107aの発現性はNK細胞
活性を反映していると考えられた。本測定方法は,既存の測定法との相関性は低かったが,NK細胞当りの細胞傷害活性を測定できる
メリットがあるため,免疫毒性試験のほか抗体医薬の非意図的なADCCの検出等に適用可能であると考えられた。
1)J. Immunol. Methods, 294, 15-22, 2004.