抄録
【背景】ジメチルアセトアミド(以下DMAC)は繊維、樹脂の溶剤、医薬品関係の反応溶剤として工業的に広く使用されている。経皮および経気道的に体内に取り込まれ、皮膚炎や肝機能障害をひきおこす。しかし、報告された肝障害についての発症メカニズムについては未だ不明である。そこで、本研究では曝露による肝障害の発生を確認するとともに、その発症メカニズムを解明することを目的とする。【方法】8週齢の雄マウス(ICR)に0, 10, 50, 250ppmのDMACを、6時間/日、14日間吸入曝露を行った。曝露が終了した18時間後、麻酔下で肝臓、血液を採取した。肝臓の一部を病理組織学的観察の麻酔下で肝臓、血液を採取した。肝臓の一部を病理組織学的観察のため固定し、H&E染色後、肝細胞の壊死、炎症の程度についてスコア化を行った。残りの肝臓及び血漿は生化学的解析を行った。【結果】DMAC吸入曝露により、曝露群では対照群と比較して、血漿ALT、ASTの上昇が上昇した。また、肝臓の病理組織標本では、250ppmの曝露群では顕著な細胞壊死、10ppm, 50ppmの曝露群においても細胞壊死が観察された。また、曝露群では炎症細胞が観察された。曝露により肝臓中で、DNAの酸化的損傷を示す8-OHdGの上昇が観察され、酸化ストレス指標であるNQO1、HO-1-mRNAも上昇した。多くの有機溶剤の代謝に関わる薬物代謝酵素であるCYP2E1の発現については、遺伝子レベル、タンパクレベルで有意に上昇していた。【考察】DMACは、CYP2E1を介した酸化的代謝による酸化ストレスの上昇により肝障害が誘発される可能性が示唆された。