抄録
【目的】ヨウ素酸ナトリウム(SI)による網膜への影響を各種検査によって検出し,網膜毒性の発現について検討した。
【方法】Crl:CD(SD)ラットにSI(50 mg/kg)を単回静脈内投与し,投与後8,24,48,96時間にERGを記録した。ERGは,暗順応下で杆体応答,混合応答及び律動様小波を,明順応下で錐体応答及び10Hzフリッカー応答をそれぞれ白色LED内臓コンタクトレンズ型電極及びGanzfeld dome型光刺激装置を用いて記録した。また,投与後3時間及び各ERG記録後に検眼鏡的検査,蛍光眼底検査あるいは組織学的検査を行った。
【結果】両機器で記録したERGにおいて,ほぼ同様な応答が得られた。すなわち,すべての応答で投与後8あるいは24時間から潜時の延長が認められた。振幅については,杆体応答,混合応答及び律動様小波は投与後8時間から,錐体応答は投与後24時間から減少が認められたが,投与後8時間には減少した例と増加した例が全ての応答で認められた。検眼鏡的検査ではSI投与の影響はみられなかったが,蛍光眼底検査では投与後3時間に蛍光剤の漏出が認められた。病理組織学的検査では,投与後3時間以降に色素上皮細胞層の壊死及び消失が,24時間以降に視細胞層の萎縮及び皺曲がみられた。
【結論】SIによる網膜への影響は病理組織学的検査で確認され,色素上皮細胞に続いて視細胞が影響を受けることが示された。これらに対応する変化がERGにおける振幅の減少及び潜時の延長として,あるいは蛍光眼底検査における蛍光剤の漏出として検出された。総じて,2つの機器で記録したERGに違いはなかった。ERGにおける振幅増加の原因は不明であり,その意味について突き詰めていくことにより,今後の網膜毒性評価に有用な情報を得られるものと考えられた。
注:本実験結果の一部は,第31回比較眼科学会年次大会で発表されたものである。