日本毒性学会学術年会
第41回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-5
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優秀研究発表 ポスター
トリブチルスズによって引き起こされる神経障害に対するステロイドホルモンの保護作用
*石原 康宏川見 友人石田 敦彦山崎 岳
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抄録
 最近、脳におけるステロイドホルモンの役割が注目されている。脳内ステロイドは、スパイン新生や樹状突起の伸長などの生理機能を有し、また、様々な病態から神経細胞を保護する。しかし、化学物質とステロイドとの関連は、ほとんど調べられていない。本研究では、環境化学物質であるトリブチルスズ(TBT)により生じる神経障害に対する、女性ホルモン、プロゲステロン(Prog)とエストラジオール(E2)の作用を調べた。
 ラット海馬スライスをTBTで処置すると、濃度依存的に神経細胞死が引き起こされた。ProgとE2は、ともにTBTによる神経細胞死を大きく抑制した。Progからアロプレグナノロン(Allo)への変換酵素5α-還元酵素を阻害するとProgの神経保護作用が消失したこと、AlloはTBTによる神経障害を抑制したことから、Progから変換されたAlloが、神経保護作用を有していると考えられる。また、Alloによる神経保護は、GABAA受容体のアンタゴニストであるビククリンによりキャンセルされたことから、GABAA受容体を介することが示唆される。一方、E2による保護作用は、エストロゲン受容体アンタゴニストであるICI182,780により抑制されたことから、エストロゲン受容体依存的である。E2は、TBTによる活性酸素生成を抑制した。また、TBTによりAktが不活性化し、E2はAktを活性化した。さらに、Akt阻害薬トリシリビンは、E2の活性酸素減弱作用と神経保護作用を抑制した。従って、E2による神経保護には、Akt活性化を介した活性酸素生成抑制が関与すると考えられる。
 本研究では、女性ホルモンがTBTによる神経障害を抑制することを示し、その抑制メカニズムを明らかにした。女性ホルモンの脳内での役割の1つは、環境化学物質からの神経保護であるかもしれない。
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© 2014 日本毒性学会
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