日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-5
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優秀研究発表 ポスター
ダイオキシンによる肝障害の新たな機構:ロイコトリエン B4 合成亢進の役割
*武田 知起小宮 由季子木庭 彰彦仲矢 道雄黒瀬 等横溝 岳彦清水 孝雄内 博史古江 増隆石井 祐次山田 英之
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抄録
2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) 等のダイオキシン類は、芳香族炭化水素受容体 (aryl hydrocarbon receptor; AhR) を介して遺伝子発現を変動させ、肝障害等の毒性を惹起する。しかし、どの遺伝子変動が毒性に寄与するかは十分に理解されていない。遺伝子の発現変動に伴い生体内成分が変動し、これが毒性に直結することが考えられるが、このような視点からの研究は十分ではない。我々は最近、ラット肝臓を用いたメタボローム解析を実施し、TCDD 曝露 (60 µg/kg) により leukotriene B4 (LTB4) が蓄積する可能性を見出した。LTB4 は、強力な好中球遊走および活性化作用を通して炎症反応に関与し、その集積は組織障害の原因となりうる。従って、TCDD による肝 LTB4 蓄積は、好中球浸潤による炎症応答の亢進ならびに肝障害に直結する可能性が高い。本研究ではこの可能性に着目し、肝 LTB4 増加の機構解析ならびに毒性学的意義を検証した。まず、LTB4 合成および代謝酵素の発現変動を解析した結果、TCDD は LTB4 合成酵素である 5-lipoxygenase を誘導すると共に、前駆物質である LTA4 を LTC4 に変換する LTC4 synthase を減少させることが判明した。さらにこれらの変動は、AhR 欠損ラットにおいては全く認められず、AhR 活性化に基づいて起こることが明らかになった。続いて、LTB4 受容体 (BLT1) 欠損マウスを用いて炎症反応に対するLTB4 増加の寄与を検討した。その結果、TCDD により野生型マウスで認められる好中球浸潤ならびに、炎症/肝障害マーカーの増加が、BLT1 欠損マウスでは顕著に抑制された。以上の成果から、TCDD は AhR 依存的に 5-lipoxygenase を誘導すると共に LTC4 への変換を抑制することで肝臓への LTB4 蓄積を惹起し、これに基づく好中球浸潤ならびに炎症反応の亢進が、ダイオキシンによる肝障害の一端を担うとの新規機構が明らかとなった。
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© 2015 日本毒性学会
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