抄録
生活習慣病とは、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群である。」と定義されている。日本人の三大死因であるがん・脳血管疾患・心疾患に加え、糖尿病、高血圧症、動脈硬化症、脂質異常症等も生活習慣病である。肥満は、糖尿病、高血圧症、動脈硬化等の疾患の発症・進展の基本病態と言われているが、その割合は、日本をはじめとする先進国のみならず、近年では発展途上国でも増加の傾向にあり、成人だけでなく小児でもその傾向が認められることから、肥満による健康被害は深刻な社会問題となりつつある。このため、2008年には、メタボリックシンドロームおよびその予備群の割合を2015年までに25%に減少する目標が出される等、肥満の予防・改善に対する対策が進められている。前述のように、肥満をはじめとした生活習慣病の原因は、文字通り生活習慣にあるが、こうした生活環境の変化には、環境中の化学物質の増加や多様化を伴っており、新たな環境要因の一つとして注目されている。これまでに、肥満への影響が報告されている環境汚染化学物質としては、残留有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants; POPs)、大気中粒子状物質、トリブチルスズ化合物、ヒ素等がある。これらの環境汚染化学物質は、糖代謝や脂質代謝をかく乱し、肥満、高脂血症、糖尿病等を亢進する可能性が指摘されている。特に、POPsは、脂溶性を有し生物蓄積性が高いという性質から、TCDD、PCB等を中心に多くの実験的研究がなされているが、毒性の高いこれらの化学物質は、規制や代替物質への移行により年々その曝露量が減少している。一方、近年、室内環境における可塑剤や難燃剤の曝露量が増加しており、これら毒性の低い化学物質の慢性的な曝露による健康影響が問題視されている。本シンポジウムでは、環境汚染化学物質曝露による肥満、あるいは肥満を起因とする病態への影響について、これまでの知見とともに我々の成果についても紹介したい。