抄録
医薬品開発における前臨床試験に実験動物が用いられる。薬物代謝には一般に種差のあることが知られているため、動物実験データからヒトにおける候補薬物の薬物動態学的評価を行うには、種差の小さい動物種の選択が重要である。霊長類であるカニクイザルでは、チトクロムP450の詳細な解析が進行し、ヒトとの類似性と限定的な差異や、遺伝子多型情報が明かになりつつある。マーモセットは小型であるため、創薬研究において少量の医薬候補品で有効性・安全性試験が行えるメリットがあるが、薬物代謝におけるヒトのモデルとしての有用性には不明な点が多い。中型動物であるイヌやミニブタにおいても薬物動態やP450研究が展開され、最近ではヒト肝細胞を移植したマウスの活用も十分に考えられる。本発表では、医薬候補品の薬物動態試験で使用される実験動物およびヒトのP450に焦点を絞ぼり、これらの比較研究の成果について紹介する。
主要な代謝臓器である肝臓や小腸で多く発現しているP450 3Aの阻害や誘導を介した臨床薬物相互作用が数多く報告されている。老齢と若年カニクイザルでP450が触媒する機能を解析した結果、ヒトの老齢モデル動物として相応しい特徴を持つことが明かとなった。ミニブタ、マーモセット、カニクイザル肝のβ遮断薬の水酸化酵素活性(P450 2Dの指標)は、ヒトに比べて強力な触媒機能が認められた。カニクイザル肝P450 3Aは、ヒトP450 2D基質に対する触媒活性も有するなど、ヒトとは一部異なる広範な酵素機能を有する可能性が推察された。以上、実験動物およびヒト肝では概ねヒトと同様のP450基質を代謝するが、その代謝酵素活性には一部違いのあることも明らかとなった。霊長類は医薬品開発において好ましい特徴を備えた実験動物となるが、両者の薬物代謝酵素の機能における類似性と一部の差異を考慮することが重要であると推察される。