抄録
ICH M7ガイドラインでは,患者の発がんリスクを最小限に抑えるため,医薬品に含まれる突然変異を誘発する不純物を低レベルに抑えることが求められている。一方,化学物質の突然変異誘発性および発がん性の評価には,一般的に細菌を用いる変異原性試験(Ames試験)の成績が用いられ,不純物の変異原性の評価にも使用される。最近,2種類のin silicoシステムを用いた不純物の変異原性についての解析結果が公表され,不純物の変異原性評価に既存のAmes試験成績を用いる場合には,厳密なチェックを行うことが重要であると述べている(Greene et al,2015)。すなわち,Ames試験の成績に基づいて変異原性物質として分類されている4種類の化合物(2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼン,2-アミノ-3-クロロ安息香酸,メチル2-アミノ-4-クロロベンゼンおよび4-モルホリノピリジン)は,2種類のin silicoシステムによる解析で変異原性なしと判定され,また,化学構造の専門家のレビューによっても変異原性のない構造の化学物質として分類された。これら4種類の化合物にいずれも変異原性を示唆する情報はなく,Ames試験とin silicoシステムによる評価結果の不一致は化合物の純度による可能性が示唆された。そこで,4種類の化合物について極めて高純度のサンプルを準備し,OECDガイドラインに準拠したAmes試験で再確認したところ,いずれの化合物でも変異原性は認められなかった。本ポスターでは,Ames試験とin silicoシステムによる評価結果が一致しない理由についても考察する。このように,Ames試験とin silicoシステムで変異原性評価の結果が一致しない場合,Ames試験の成績はガイドライン上の最低限の要件として捉えるのが適切と考える。