抄録
厚生労働省は化学物質による中毒等事故のうち災害予防の参考となる事例を報告しており、事故発生原因の1つとして、有害性の認識不足を指摘している(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei10/)。急性曝露ガイドラインレベル(Acute Exposure Guideline Level , AEGL)とは、有害物質の公衆に対する閾値濃度のことで、AEGL-2は、公衆に避難能力の欠如や重篤な長期影響の増大が生ずる「障害レベル」の、AEGL-3は公衆の死亡の増加が生ずる「致死レベル」の濃度閾値である。多くの場合、有害性の認識は急性致死毒性に基づいているが、事故は死亡には至らない低濃度から発生する。そこで、中毒事故起因物質のLC50値とAEGL値を比較し、新たな注意喚起指標を検討した。当研究所のHP(http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/aeglindex.html)にある100超の化学物質のAEGL情報の中から、災害発生事例の39物質を抽出し、毒劇物指定状況、LC50値、GHS分類区分、AEGL-2/-3値(4時間値)を調査した。その結果、33物質が毒劇物あるいはGHS急性毒性区分1/2/3(毒劇物相当)に指定/分類されていた。LC50/AEGL-3比は、39物質中34物質で100以下であった。一方、LC50/AEGL-2比が100以上(~1333)のものが15物質認められ、LC50値よりも極めて低い濃度でヒトに有害影響を生ずる可能性が示唆された。致死毒性の低い塩化ビニルもこの中に含まれていた。化学物質中毒を未然に防ぐには、致死レベルを指標としたGHS分類のみならず、障害レベルをも考慮したAEGLを指標として活用することが有効と考えられた。